習政権3期目とゼロコロナの大幅緩和

筆者:和田大樹
国際政治学者 専門分野は国際政治、安全保障論、国際テロリズム論、地政学リスクなど。共著に『2021年 パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』(創成社、2021年)、『「技術」が変える戦争と平和』(芙蓉書房出版、2018年)など。詳しいプロフィールはこちら https://researchmap.jp/daiju0415

 台湾情勢などで緊張が続くなか、10月に北京で共産党大会が行われ、習近平政権の3期目が正式にスタートした。習氏は2018年に2期10年までとする国家主席の党規約を撤廃ており、その時点で3期目が確実視されていたことから、今回の件で大きな衝撃はない。習氏は2035年までに社会主義現代化を確実にし、中華人民共和国建国100年となる2049年までに社会主義現在化強国を進めていく方針を明らかにし、台湾について「統一必ず実現しなければならないしが、平和的統一を希望するが武力行使を排除しない」という姿勢を改めて強調した。また、党規約にも台湾独立に反対し、それを抑え込む趣旨の内容が党規約に盛り込まれたことから、習氏にとって台湾統一がノルマのようになってきているようにも捉えられる。習氏は11月14日の米中首脳会談の際にも、米中関係が競争から衝突に発展することを回避するよう努め、対話のチャンネルを常に維持していくことで一致した一方、台湾は中国にとって核心的利益の中の核心であり、米国が超えてはならないレッドラインだとバイデン大統領を強くけん制した。
 こういった強い意志は、習政権3期目を進めていく上で極めて重要となる。習氏は最高指導部の人事などを自らの側近たちで固め、政権内での習カラーを一層強め、国民からの忠誠心や愛国心を高めていくことを狙っている。
 だが、習氏は既に大きな難題に直面している。3期目が始まって間もない中、中国国内では3年あまりに渡って実施してきたゼロコロナ政策を大幅に緩和させた。背景にはゼロコロナ政策への市民の高まる強い不満があり、ゼロコロナ政策やロシアによるウクライナ侵攻もあって中国の経済成長率が鈍化することに習政権は警戒を強め、それが緩和の背景にある。
 今回の反ゼロコロナを求める抗議デモは、短期間のうちに内外へ一気に拡大したことが大きな特徴だ。11月下旬、新疆ウイグル自治区ウルムチで外出禁止など厳重な封鎖措置が実施されるなか、10人が犠牲となる火災が発生したことがきっかけとなり、北京や広州、上海など国内各地で反ゼロコロナを求める抗議デモ、抗議集会が行われ、その流れはSNSなどネット空間を通じて一気に広がり、ロンドン、パリ、東京、シドニーなど各国で同様の訴えが示された。そして、抗議の声を上げた中国市民の内心なるのは単に反ゼロコロナだけではなく、一党独裁への反発、経済格差の拡大など様々な不満や怒りがあり、今回の件がきっかけで一気に不満が噴出したとみるべきだろう。実際、10月の共産党大会の前後、北京市北西部にある四通橋では「ロックダウンではなく自由を、PCR検査ではなく食糧を」、「独裁者習近平を罷免せよ」などと赤い文字で書かれた横断幕が掲げられ、上海でも若い女性2人が「不要」などと書かれた横断幕を持って車道を歩く動画がツイッター上に投稿された。
 習政権3期目は1期目2期目以上に難題に直面する可能性がある。現在の中国は昔の中国ではない。米中大国競争と頻繁に呼ばれるように、中国は経済力や軍事力で米国に拮抗し続け、一帯一路によってグローバルな影響力を拡大している。言い換えれば、今日の中国が自認しているかどうかは別として、諸外国の中には責任ある大国中国が国際社会でどのような行動を内外に示すかを注視する国々も増えている。そうすれば、中国としても反ゼロコロナの動きを無視し、強硬な対応を取りにくくなる。そういった視点からも、今回習政権が大幅緩和に踏み切った背景にあるかもしれない。

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