チャレンジャー巡航戦車-遅れて登場した戦車

 チャレンジャー巡航戦車は、第二次世界大戦でイギリス軍が使用した戦車です。クロムウェル巡航戦車に17ポンド砲を搭載したものです。量産開始は1944年にずれ込み、活躍の場がほとんどないままでした。今回はチャレンジャー巡航戦車とはどのようなものだったのかを紹介します。

開発に至る経緯

 開発構想が出されたのは、1940年11月のことでした。この時は、北アフリカの戦場での戦いを想定して、これに適した戦車が求められます。ヨーロッパと異なり、北アフリカ戦線は砂漠や平原が広がっている土地であり、大射程での戦車同士の撃ち合いが想定されていました。
 しかし、その後、開発構想は変化します。ドイツ軍がティーガーⅠ、パンターといった新型戦車を投入してきたためです。ドイツ軍の戦車に対して、17ポンド砲を搭載した戦車を開発することになりました。17ポンド砲は高い装甲貫徹力を持っていたためです。そこで、巡航戦車クロムウェルの車体をベースにした巡航戦車チャレンジャーが開発されることになりました。

紆余曲折の開発

 1942年初頭、バーミンガム鉄道車輛会社を設計会社として、開発が行われました。1942年5月には試作車3両の製造に着手し、8月には最初の試作車「パイロットA」が完成しました。この試作車を用いて、13日から評価試験が開始されます。
 しかし、開発の結果は思わしくありませんでした。問題だったのが、エンジンです。クロムウェル巡航戦車の車体を拡大し、重量が増えたにもかかわらず、エンジンはそのままでした。そのため、機動性に問題があります。
 問題点はそれだけではありませんでした。17ポンド砲は大型で砲身が重く、傾斜地では砲旋回が困難という欠点を抱えていました。大型の砲塔を積んでいるために、背が高く、目立っていました。それにもかかわらず、装甲が薄いため、撃破されてしまうことを懸念していました。
 試作車の評価が低かったために実戦投入は遅れます。試験が行われ、ようやく制式化が認められましたが、アメリカ製のM4シャーマンに17ポンド砲を載せたシャーマン・ファイアフライが大量に配備されました。結局、シャーマン・ファイアフライの量産の方が早かったために、試作の段階で問題があったチャレンジャーは後回しになります。量産開始は1944年3月になりました。
 量産開始の3か月後にノルマンディー上陸作戦が行われましたが、防水対策が不十分であり、車輛の数が少なかったために作戦には参加しませんでした。本格的な実戦投入は8月となります。シャーマン・ファイアフライが配備されていたために、チャレンジャーは機動性を重視強いていた機甲偵察連隊などに配備されました。結局、試作車を含め175輌の生産にとどまり、終戦後は退役します。チェコスロバキア軍では、1950年代の始めまで訓練用の標的などとして使用されることになりました。

車両構造

 冒頭で紹介したように、チャレンジャーは巡航戦車クロムウェルに17ポンド砲を搭載しました。そのために、クロムウェルよりも、車体が6フィート延長されます。延長された分だけ、余計に転輪が必要となりました。転輪も一組増えて片側6組となっています。
 砲塔部はストサート&ピット社が製造したものが使われました。これは元々、TOG 2重戦車に搭載され、実験も行われたものです。大型の17ポンド砲を運用するため、砲弾は大きくなります。狭い車内に少しでも多くの砲弾スペースを確保するために、装填には2人必要でした。砲弾搭載量も28発となります。後に砲弾を搭載するスペースを確保するために車体前部の機銃は撤去され、弾薬庫になりました。これによって、砲弾搭載数は42発となります。
 頼みの17ポンド砲にも問題がありました。主砲はオードナンスQF 17ポンド砲が搭載されました。17ポンド砲ということで、装弾筒付徹甲弾を用いた場合には射程1000mで225mmの装甲板を貫通するという威力を発揮しました。
 しかし、これは命中した場合のことです。当たり前のことですが、当たらなければ意味がありません。残念ながら、搭載された17ポンド砲は、弾道が不安定な傾向にありました。射程が長くなれば長くなるほど、不安定になっていきました。
 しかも、砲弾は装弾筒付徹甲弾の生産量自体が少なかったために、他の徹甲弾を使わざるを得ませんでした。生産されている砲弾の94%は被帽徹甲弾でした。装弾筒付徹甲弾に比べて、被帽徹甲弾を用いた場合には同じ条件で136mmの装甲版を貫通します。装弾筒付徹甲弾に比べて貫徹力が弱いのは致し方ないところでした。
 試験では走行性の悪化が懸念されていましたが、実車ではそこまで深刻ではなかったようです。配備された部隊では、評判も上々でした。故障などが少なかったためにかえって乗員からは好評という始末でした。
 このようにチャレンジャーは紆余曲折の開発の末、大戦が終盤に向かう段階で量産化された戦車です。シャーマン・ファイアフライが量産化されていたために、生産数は少なかったですが、部隊には信頼される車体だったと言えるでしょう。


参考資料
デイヴィッド・フレッチャー、リチャード・C. ハーレイ、ピーター・サースン、篠原比佐人訳『クロムウェル巡航戦車1942‐1950 (オスプレイ・ミリタリー・シリーズ世界の戦車イラストレイテッド)』大日本絵画、2007年。

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