シャルンホルスト級戦艦―第二次世界大戦で活躍したドイツの主力艦

 シャルンホルスト級戦艦は、ドイツ海軍の戦艦です。ヴェルサイユ条約の軍事条項破棄後に建造されました。第一次世界大戦終結後、ドイツが初めて建造した大型艦艇です。経験不足から、性能の評価は高くありませんが、その後のドイツ海軍にとっては重要な戦艦でした。ここでは、シャルンホルスト級戦艦とはどのようなものだったのかを紹介します。

建造の経緯

 元々、シャルンホルスト旧戦艦は、フランスの中型戦艦ダンケルク級に対抗するために建造されました。当初は、ドイッチュラント級装甲艦をより大型化した4、5番艦の開発を決定しました。このときは、排水量20,000トン、全長230m、速力29ノット、主砲28cm砲6門、副砲15cm砲8門という仕様でした。
 しかし、建造は早くも中止されます。ヴェルサイユ条約の軍事条項破棄が決定されたためです。基準排水量26,600トン、速力30ノットの中型戦艦として、計画は再開されました。主砲塔数は3基となり、元の計画よりも攻撃力が向上します。また、ドイッチェランド級3番艦まで採用されていたディーゼル機関の搭載が見送られました。これは、信頼性と高速発揮に不安があるためです。ディーゼル機関から重油専焼高圧缶と蒸気タービン機関の組み合わせに変更されました。
 1936年に竣工しましたが、その時のシャルンホルストは艦首形状がほぼ垂直に近く、凌波性に問題がありました。そのため、公試時に高速航行を行うと、艦首で砕けた波の飛沫が前部主砲塔だけでなく、艦橋にも飛び散り漏水してしまいました。そのため、公試後にドック入りし、艦首を強く傾斜させるアトランティック・バウへと改修されました。この改修で艦の全長は、元設計よりも若干延長されます。
 改修が行われましたが、凌波性は改善されたとはいえませんでした。改修後には錨鎖孔に波が吹き込んでしまいます。甲板から噴水のように海水が飛び出し、主砲塔や艦橋に吹きかかるという問題が発生しました。この解決のために錨鎖孔は塞がれ、艦首にフェア・リーダーが付けられます。このように改修が繰り返されましたが、凌波性の問題は解決しませんでした。結局、1番主砲塔まで波が飛び、主砲塔装備の測距儀が使用不能となる事態にもなりました。こうしたトラブルは慢性的なものだったようです。第一次世界大戦以降、ドイツは戦艦のような大型艦の建造が制限されていました。そのための技術不足、経験不足がこうした事態を招いたとされています。
 船体の基本構造は設計期間短縮する為に巡洋戦艦マッケンゼン級の設計を流用することになりました。マッケンゼン級は第一次世界大戦時に設計されていたために、時代遅れなのは否めません。この巡洋戦艦マッケンゼン級の設計を一部流用したために、ドイッチュラント級で採用された舷側と艦底部の3重構造、巧妙な機関配置は継承されませんでした。そのために、シャルンホルスト級は対艦防御・水雷防御を低下させてしまいます。

シャルンホルスト級戦艦の評価

 先ほど紹介したように、本級が建造された元々の目的はダンケルク級への対抗でした。ダンケルク級は33cm砲を搭載していましたが、シャルンホルスト級は11インチ砲(28cm砲)を採用したために攻撃力に劣っていました。
 ドイツ海軍では、砲が小さくても、他国の砲に対抗できるとしていました。実際問題としては、砲の威力は大型砲のほうが上回っています。それでも第一次世界大戦当時のドイツでは、11インチ砲に15インチ砲が匹敵する、ドイツの戦艦はイギリスに対抗できるとされていました。この背景には、砲弾を軽くし、装薬を多くすることで、初速を上げ、近距離で命中させていたためです。しかし、これはまだ戦艦同士の砲戦距離が短かったために成り立つ理屈でした。
 しかし、第一次世界大戦以降、技術の進歩により、砲戦距離が長くなります。艦砲は砲戦距離が伸びると、砲弾が失速してしまい、敵の装甲を貫通できずに弾丸が弾かれてしまいます。ドイツの場合には砲弾自体が軽いために落下速度で貫通力を上げるということも難しい状態でした。第二次世界大戦時には、砲戦距離が20,000m台に伸びていました。こうした状況では11インチ砲は能力不足と言わざるを得ませんでした。ダンケルクへの対抗という視点からは、口径の小さい主砲を採用したために、対抗は難しいという状況でした。とはいえ、実際の戦闘においては、ダンケルク級との交戦機会はありませんでした。シャルンホルスト級戦艦は通商破壊艦として用いられました。
 シャルンホルスト級戦艦は、ドイツにとって第一次世界大戦後制限されていた大型戦艦を改めて建造する機会でした。制限されていたために、第一次世界大戦まで培っていた建造経験は止まってしまっており、最新の状況への対応に迫れるという次第でした。こうした中で完成したシャルンホルスト級は技術不足や経験不足という問題があったことは否めません。そのため、完成したシャルンホルスト級は中途半端という評価になってしまいます。しかし、シャルンホルスト級で培った技術は、その後のドイツの戦艦に一部活かされる事になります。



主要参考資料
エドウィン・グレイ、都島惟男訳『ヒトラーの戦艦』光人社NF文庫、2002年。
『世界の艦船増刊第26集 ドイツ戦艦史』海人社、2021年5月。

購読する
通知する
guest

CAPTCHA


0 コメントリスト
インラインフィードバック
コメントをすべて表示