マーケット・ガーデン作戦/優勢な連合軍の油断と楽観

マーケット・ガーデン作戦は1944年9月に西部戦線で実施された、連合軍による攻勢作戦です。ドイツ占領下のオランダへの進撃を目指し、空挺部隊と地上部隊が連携する空地一体となった大規模な作戦でした。ノルマンディーを巡る戦いで勝利を重ねていた連合軍は、ドイツ軍に大きな損害を与えており、ナチス・ドイツの打倒までもう一押しと考えられていました。マーケット・ガーデン作戦が成功すれば、連合軍は重要な補給港を確保とともに、一気にドイツ国内への進撃が可能になるはずでした。しかし、稚拙な作戦計画やドイツ軍の予想以上の反撃により、連合軍の楽観的な見通しは打ち砕かれることになります。マーケット・ガーデン作戦は失敗に終わり、ノルマンディー上陸から快進撃を続けていた連合軍の進撃は停滞することとなりました。

オランダに降下する連合軍空挺部隊

★マーケット・ガーデン作戦立案まで~連合軍を悩ませた補給不足~

 ノルマンディー上陸作戦から約3か月、連合軍はドイツ本国へと迫っていました。上陸直後には苦戦を強いられることもありましたが、その後は快進撃を続け、8月25日にパリを解放すると、その2週間後にはドイツ国境付近へと到達していました。しかし、あまりにも速い進撃のためにいくつかの問題が生じていました。
 その1つは補給の問題です。イギリスからは連合軍に向けて膨大な物資が届いていましたが、港湾の揚陸能力と輸送を行うトラックが不足していたため、前線部隊の急速な進撃についていくことができず、十分な補給ができなくなっていたのです。特に、戦車をはじめとする機械化部隊への燃料補給が問題で、燃料が枯渇した部隊は進撃を停止せざるを得ませんでした。
 さらに2つ目の問題として、連合軍内部で意見の対立が生じていたことあげられます。連合軍の最高司令官であるアメリカ陸軍ドワイド・アイゼンハワー大将が、現状のまま力押しで攻めていけば急がずともドイツ本国へ進行できると考えていたのに対し、イギリス軍のバーナード・モントゴメリー元帥は、自らの指揮する部隊が担当している北部に重点を置き、オランダ領内からドイツ本国に進撃すればよりスピーディに戦争を終わらせられると主張しました。
 そして、3つ目の問題が連合軍を覆っていた楽観主義でした。ドイツ軍はノルマンディー戦と続くフランスの戦いで30万以上の兵力を失う損害を出しており、連合軍首脳部はもはやドイツに戦争を継続する力はないと見ていました。連合軍内部では戦争の先行きについて楽観的になり、戦争は年内に終わるかもしれない、といった予測すらも生まれるほどでした。こうした諸問題はマーケット・ガーデン作戦の立案にも影響を及ぼすことになります。

バーナード・モントゴメリー元帥

★マーケット・ガーデン作戦の作戦構想

 1944年9月9日、連合軍はモントゴメリーの意見を採用し、オランダの奪還を目指した「マーケット・ガーデン」作戦の実施を決定しました。連合軍内部での意見対立は、直近で元帥へと昇格したモントゴメリーの顔を立てる形で、アイゼンハワーが折れ、モントゴメリーが主導するベルギー北部からオランダへの攻勢作戦が行われることとなりました。マーケット・ガーデン作戦は、空挺師団をオランダへと降下させ、進撃路にある重要な橋を確保する「マーケット」作戦と機甲部隊が地上から進撃する「ガーデン」作戦の2つの作戦からなり、空挺部隊と地上部隊が連携した空地一体の攻勢作戦でした。

マーケット・ガーデン作戦開始時のヨーロッパの戦況図

★3つの作戦目標 1:ドイツ本国への進行

 マーケット・ガーデン作戦には3つの目的がありました。1つ目は地上部隊によるドイツ本国への進撃とルール工業地帯の占領です。マース川・ワール川・ネーダーライン川などにかかる橋を空挺部隊が確保することで、地上部隊は本来なら障害となる大河を迅速に突破して、約100キロを一気に進撃することができるようになります。そして、そのままドイツ本国へと突入し、ドイツ経済の心臓というべきルール工業地帯を抑えることによってドイツの戦争遂行能力を奪うこととされていました。

★3つの作戦目標 2:補給問題の解決

 2つ目は補給問題の解決です。連合軍がオランダへ進撃すれば、ベルギーのアントワープが補給港として利用可能になりました。連合軍はすでに前線に近いアントワープ港を占領していたものの、その入り口となるオランダ西部のスヘルデ河口はドイツ軍によって抑えられていました。連合軍がオランダのアルンヘムを占領できれば、アントワープの入り口を塞ぐドイツ第15軍を包囲・殲滅して補給問題を改善することができたのです。

★3つの作戦目標 3:V1・V2発射基地の除去

 3つ目はドイツによる報復兵器の脅威を排除することです。オランダにはイギリス本国やフランスのパリ・アントワープなどを狙うドイツ軍のV1兵器・V2兵器の発射基地があり、マーケット・ガーデン作戦の実施によりこれらを排除することができます。民間人にも被害を与えるドイツ軍の新兵器は深刻な脅威と考えられており、アイゼンハワーにマーケット・ガーデン作戦を認めさせる一因にもなりました。

マーケット・ガーデン作戦計画

★マーケット・ガーデン作戦の問題点1:強力なドイツ軍部隊の存在

 マーケット・ガーデン作戦は複数の目的をもったかなり野心的な作戦といえましたが、当初から問題点も浮上していました。レジスタンス組織からの報告で、オランダに強力なドイツSS(武装親衛隊)部隊の存在が確認されたのです。ドイツ軍の暗号を解読したウルトラ情報でも、アルンヘムの北で第9・第10SS装甲師団からなる第2SS装甲軍団が休養中であることが裏付けられていました。しかし、モントゴメリーやアイゼンハワーら連合軍首脳は、これらはフランスから逃げてきた敗残部隊でほとんど脅威になりえないと考えました。そのため、事前にいくつもの情報があったにも関わらず、こうした不都合な事実は無視され、将兵たちには「現地を守っているのは、戦力にならない老人や少年兵ばかり」といった誤った情報が伝えられることになります。しかし、彼らの予測に反し、実際にはこれらのSS部隊は未だベテランの将兵を多数有しており、アルンヘム北部に広がる森林地帯で休養と再編成を行い、戦力を回復させているところでした。ドイツ軍はまだまだ戦闘能力を失っておらず、オランダには予想を上回る強力な敵が待ち構えていたのです。

第9SS装甲師団 Arnheim, Flakpanzer IV Höppner (commons.wikimedia.org/wiki/File:Bundesarchiv_Bild_101II-M2KBK-771-34,_Arnheim,_Sturmgeschütze.jpg)
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