1944年のドローン作戦

2020年9月に発生したナゴルノ・カラバフ紛争は無人航空機、すなわちドローンを大々的かつ組織的に運用した戦争として多くの軍関係者及びマスコミを驚かせました。2005年公開の映画「ステルス」や2019年発売のシューティングゲーム「エースコンバット7」など、人間が搭乗しない航空機は近未来の戦争の象徴として多くのフィクションに登場します。
そんな未來戦の象徴のようなドローンですが、第二次世界大戦中にドローンを開発し、作戦に投入した国がありました。連合陣営のドン、アメリカ合衆国です。

★報復兵器を叩け!

第二次世界大戦で最も先進的な兵器の一つであるV号兵器、巡航ミサイルの始祖であるV1飛行爆弾とICBMの始祖であるV2弾道弾は当時の連合軍にとって頭痛のタネでした。それらの生産、運用施設はドイツ奥地のペーネミュンデに集中し、フランスやベルギーなど“比較的爆撃しやすい”場所に位置する発射基地は重厚なべトン掩体壕と防空部隊に守られた堅牢な要塞と化していました。1943年8月、連合軍はこれらのV号兵器拠点を一挙に叩くべく「クロスボウ作戦」を立案します。これは発射基地、輸送路、V1運用部隊の飛行場などの関連施設を根絶やしにするというもので、発射後のV1迎撃やジャミングまで含めた非常に大規模な作戦として知られています。

世界初の実用弾道弾V2ロケット。インパクトの割に実戦果は乏しく、兵器としては失敗作であった

★難攻不落のミサイル要塞

 その中で最大の難敵とされたのが、ラ・クポールに建設中だったミサイルサイロ「ワッテンバンカー」及び「ヴィゼルヌバンカー」です。古くから採石場として有名だった同地には放棄された坑道が多く残っており、ドイツ軍はそれを利用してV2ミサイルの生産、発射設備を地下に建造しました。これらのバンカーの特徴はその小ささで、地上に露出しているのは直系71メートルのV2発射用ドームのみ。生産工場や燃料精錬設備、発電所や兵舎は地下深くに秘匿され、厚さ5メートル以上のコンクリートで堅牢に防御されていました。V兵器の責任者であったドルンべルガー将軍と軍需相シュペーアは大要塞より移動、秘匿が可能なトラック発射台の開発を進言しましたが、「世界最高のハイテク秘密要塞」というワードに心を鷲掴みにされたヒトラーにより莫大な資材が投入され、建設が強引に進められました。
 そんなドイツ側に対して、連合側は本気で焦りをみせます。通常の爆撃でこの施設を破壊することは困難で、有効打を与えるためにはトールボーイ5トン爆弾かグランドスラム10トン爆弾を用いる必要がありました。それでも可能な限り直撃させる必要があり、高価で、鈍足になる巨大爆弾用ランカスター改造機では撃墜される可能性が高いと算出されました。連合側は「被撃墜のリスクが低く、命中率が高い手段を以て5~10トンクラスの爆薬を投射すること」を求められたのです。

ミサイルバンカーの完成予想図

★電波誘導の女神様

 そこで米陸軍は実戦運用規定を超過した老朽重爆に爆薬を満載させて施設に突っ込ませる“米製カミカゼ”こと「アフロディーテ作戦」を考案します。もちろん悪名高い“本家“と違って搭乗員の生還を企図したものであり、老朽重爆には当時最新鋭だった無線誘導装置が搭載されました。老朽化したB-17から銃座、装甲、爆装を取り払い、代わりに無線操縦装置「アゾン」とテレビカメラ2基、そして10トンの新型爆薬トーペックスが積み込まれました。BQ-7と呼ばれた改造B-17は操縦士が乗り込んで離陸、射程内まで飛行したら無線誘導に切り替えて操縦士は脱出し、誘導母機からの電波誘導で目標に突っ込むというもので、現代風に言うと「指令誘導により目標に到達するカミカゼドローン」になります。1944年初頭までにBQ-7十機と誘導母機CQ-4四機が調達され、ノーフォークに展開する第562飛行隊に配備されました。

無線操縦装置を搭載したQB-7

★あまりに間抜けな顛末

 1944年8月から実戦投入される予定だったQB-7ですが、一つ問題が発生しました。最大の目標であったミサイルバンカーが建造中に破壊されたことです。英軍は周辺の鉄道網を猛爆し建設を妨害、1944年6月に未完成だったサイロにトールボーイを命中させ完全に破壊してしまったのでした。いくら無敵のハイテク地下要塞も未完成なら巨大なカタコンベでしかありません。流石イギリス、なんと賢い。いや、アメリカとドイツが空回りしただけでしょうか?ともかく、ロングボウ作戦最大の障害は取り除かれQB-7はお役御免になってしまいました。
 生産されたQB-7は15回の作戦に投入されましたが無線装置の信頼性が低く、鈍足であったため事故や戦闘で失われ、戦果ゼロのまま1945年1月に運用停止が命令されてしまいます。機材の半数以上が事故で失われ、操縦士も敵地に降下し殺害されるなど多くの犠牲出しました。戦死者の中には後の35代大統領ジョン・F・ケネディの兄であるジョセフ・P・ケネディが含まれており、本来ケネディ家はジョセフを大統領にするつもりだったそうなので、運命とは皮肉なものです。

ケネディ大統領の実兄ジョセフ・P・ケネディ

★ドローンという兵器

 アフロディーテ作戦は失敗に終わり、海軍主導で研究されていたドローン、アンヴィル計画も成功しませんでした。原因はやはりコンセプトに対して技術が追いついていなかったことであり、無人航空機による攻撃は永らくSF世界の話として認知されていました。しかしアメリカはドローン研究を熱心に続け、1950年代には訓練用標的機としてドローンを本格使用、1960年代には無線ヘリによる対潜哨戒や偵察ドローンをベトナム戦争に投入するなど徐々に成果を積み重ねていきました。
 21世紀現在、軍用ドローンは偵察から攻撃まで多種多様な任務をこなせるよう進化しており、未来の戦争を担う兵器として注目されています。ハイテク兵器と思われがちなドローンですが、その源流は第二次世界大戦から存在したということは、記憶の片隅に留めておいてもいいかもしれません。

ナゴルノ・カラバフ紛争で活躍したカミカゼドローン「ハロップ」
(Julian Herzog , CC BY 4.0)

参考文献
https://web.archive.org/web/20080417214556/http://www.mugualumni.org/secretarsenal/page9.html
http://joebaugher.com/usaf_bombers/b17_14.html
https://web.archive.org/web/20070912155604/http://www.airwarweb.net/usaaf/8af_1944.php
http://www.ibiblio.org/hyperwar/AAF/III/AAF-III-15.html

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