メルセルケビール海戦／イギリス海軍vsフランス海軍！数日前までの同盟国間で戦闘に

★イギリス海軍H部隊(襲撃部隊)

・巡洋戦艦「フッド」(旗艦)
・戦艦「ヴァリアント」「レゾリューション」
・空母「アークロイヤル」
・軽巡洋艦「アリシューザ」「エンタープライズ」
・駆逐艦「フォークナー」「フォックスハウンド」「フィアレス」「フォレスター」「フォアサイト」「エスコート」「ケッペル」「アクティブ」「レスラー」「ヴィデット」「ヴォーティガン」

★メルセルケビールのフランス艦隊

・戦艦「ダンケルク」(旗艦)「ストラスブール」「ブルターニュ」「プロヴァンス」
・水上機母艦「コマンダン・テスト」
・大型駆逐艦「モガドール」「ヴォルタ」「ランクス」「ティーグル」「ケルサン」「ル・テリブル」

★イギリスの最後通牒　5つの選択肢

 1940年7月2日、ジェイムズ・サマヴィル中将率いるH部隊はジブラルタルを出港し、7月3日早朝にメルセルケビール沖に到着しました。フランスに堪能なアークロイヤル艦長のセドリック・ホランド大佐が駆逐艦フォックスハウンドに乗り込み、フランス軍との交渉へ向かいます。もしここでフランス海軍が素直に従うようならイギリス海軍も攻撃を行うつもりはなく、ホランド大佐がフランス海軍司令官マルセル・ブルーノ・ジャンスール中将に提示した最後通牒には5つの選択肢がありました。
 1つ目はメルセルケビールのフランス艦隊が連合軍に加わり枢軸軍と戦うこと。
 2つ目は艦艇をイギリス本土の港湾へ回航すること。
 3つ目は艦艇を西インド諸島またはアメリカの港へ回航すること。
 4つ目は艦艇を自沈させること。
 そして5つ目、上の4つの条件のどれも受諾できない場合、どのような手を使ってもフランス艦隊がドイツの手に渡ることを防ぐよう厳命されている、イギリス艦隊と戦闘を交えることになります。いきなりこんなものを選べといわれたジャンスール提督は困惑することとなりました。その上、当時、フランスの海軍本部はヴィシーへと引っ越しをしている最中で、本国との連絡もつかず、ジャンスールは自分の判断のみですべてを決めなければならなかったのです。困り果てたジャンスールはフランスの艦艇は枢軸軍の手に渡ることはないと保証すると伝えただけで、選択肢のどれかを選ぶことはありませんでした。

★メルセルケビール海戦

 フランス側の曖昧な解答を見たイギリス軍は、12時30分、アークロイヤルから発艦したソードフィッシュが空中投下による機雷敷設を実施し、港湾の封鎖を行います。そして、午後5時54分、ついにH部隊はフランス艦隊への攻撃を開始しました。フランス側も反撃を行い、メルセルケビール海戦が発生します。フランスの主力艦はメルセルケビールの港湾の形状のため、艦首を陸地に向けて停泊していたため、イギリス軍に対して攻撃を行えるのが艦尾の砲だけとなっており、主砲を艦首に集中配備していた戦艦ダンケルクやストラスブールにとっては特に痛手になりました。戦闘はイギリス海軍の有利に進み、午後6時9分、直撃弾を食らったブルターニュが大爆発を起こして転覆します。プロヴァンスは被弾して損傷後、沈没を防ぐために擱座し、被弾した駆逐艦モガドールが魚雷の誘爆により大破しています。戦艦のなかで唯一ストラスブールだけが駆逐艦とともに脱出に成功し、ツーロンへと入港することに成功しました。ジャンスールの乗る旗艦ダンケルクは逃走するストラスブールを援護していましたが、フッドの38cm級主砲4発により水線下と二番主砲塔に損害を受けて大破し、沈没を防ぐため浅瀬に擱座しました。

 この海戦でフランス海軍は戦艦1隻が撃沈され、2隻が大破着底、駆逐艦1隻が大破し、戦死者は1300名に上りました。一方、イギリス軍の戦死者は撃墜されたブラックバーン・スクア艦爆の乗員わずか2名だけであったといいます。フランス海軍の独立を守るためとはいえ、イギリスとの戦闘を選んで大きな損害を出したジャンスール提督は、イギリスが直前まで同盟国であったため交渉により戦わずに解決する道もあったと考えられることや、海外植民地にいたフランス軍の多くが自由フランスに参加したことから、戦後、フランス国内からこの時の判断を批判されることになりました。

★イギリスの戦術的勝利と政治的失敗

 メルセルケビール海戦はわずかな犠牲と引き換えに大きな戦果を得たイギリス軍の戦術的勝利といえます。ですが、ダンケルクとプロヴァンスは後に応急修理を受けてツーロンへと帰還しているため、結局、この海戦で撃沈されたのは戦艦ブルターニュ1隻だけでした。フランス海軍に与えた損害は決して大きなものではなく、フランス艦艇がドイツの手に渡るのを防ぐという目的も限定的にしか達成できていません。それよりも、かつての同盟国からいきなり攻撃を受け、多数の犠牲者を出したことで、カタパルト作戦はフランス国民のイギリスに対する怒りと不信感に火をつけました。フランス国内で反英感情を起こし、一時的にヴィシー・フランスを枢軸寄りにしたメルセルケビール海戦は、イギリスにとって戦略的に失敗とはいわないまでも、メリットの少ない作戦であったといえるでしょう。