メルセルケビール海戦は、1940年7月3日、北アフリカのフランス植民地、アルジェリアのメルセルケビールで起こったイギリス海軍とフランス海軍による海戦です。フランス本国の降伏により、フランス海軍の艦艇がドイツの手に渡ることを恐れたイギリスは、フランス艦隊が停泊する港湾への襲撃作戦であるカタパルト作戦を発動します。フランス海軍は、この海戦で戦艦1隻撃沈、2隻大破の大損害を受け、多数の戦死傷者を出しました。わずか数週間前までの同盟国から不意討ちのような攻撃はフランス国民の怒りに火をつけ、フランスの対英感情を悪化させて一時的に枢軸寄りにする結果を生みました。そのため、メルセルケビール海戦は戦略的にはイギリスの失点であったと考えられています。
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★フランス降伏と残された艦隊
1940年6月、ドイツ軍の電撃的な侵攻を受けたフランスは降伏し、ドイツの占領下に置かれることになりました。ドイツ軍によるフランス侵攻は主に陸上戦闘のみで決着がついたため、この時点でフランス海軍の艦艇はほぼ無傷の状態で残存していました。6月22日、フランスはドイツと休戦条約を締結し、フィリップ・ペタン元帥を首班とするヴィシー・フランス政権が成立します。ヴィシー政権は事実上、ドイツの傀儡政権でしたが、休戦後もフランス海軍の艦艇は、フランス海軍の管理下に置かれることになっていました。ドイツにとって強力なフランス艦隊はぜひとも自国海軍に組み入れたい魅力的な存在でしたが、強引に接収しようとすれば、フランス海軍は艦艇を自沈させたり、イギリスへと脱出させる可能性がありました。もしフランス艦隊が連合軍と合流すれば、ドイツにとって大きな脅威になります。そのため、フランス海軍に保有させておき、枢軸にも連合軍にもつかずに中立化させるのが得策と考えられたのです。
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★フランス海軍の無力化を望むチャーチル
こうして、フランス艦隊がドイツの手に渡ることはなくなったのですが、フランスの元同盟国であったイギリスはこの協定を全く信頼していませんでした。傀儡政権であるヴィシー・フランスにドイツに反抗する力はなく、その気になればフランス艦隊は簡単にヒトラーのものになってしまうでしょう。当時のイギリス首相であったウィンストン・チャーチルはドイツがフランスの艦艇を戦力化し、イギリス海軍を脅かす存在になることを危惧していました。フランスの敗北が明らかとなった時点でイギリスはフランスとの協議を行い、何度も艦艇の引き渡しを求めていたのですが、フランスはこれを拒否していました。当時のフランスではこの戦争はドイツの勝利に終わるとの見方が大勢で、戦後を見越して、フランスがヨーロッパで自立した国家としての地位を築いていくためには、海軍力はなくてはならないものと考えられていたためです。ですが、チャーチルはフランスの艦艇はイギリス海軍の指揮下に入るか、または自沈しない限りは危険な存在であり、なんとしても無力化すべきと考えていました。そして、フランスの降伏後、フランス海軍への襲撃作戦を実行に移したのです。
★カタパルト作戦
イギリスによるフランス海軍残存艦隊の無力化作戦は「カタパルト作戦」と名付けられました。イギリス海軍は、フランスの植民地だった北アフリカのアルジェリア・メルセルケビール軍港へ空母・戦艦などからなるH部隊を派遣して攻撃を行いました。いくらイギリス海軍といえども、フランス本国の港湾を攻撃するほどの力はもっていなかったため、標的になったのは海外植民地に配備されていた艦隊でした。当時、フランス艦艇の約4割が本国に、2割がイギリスの支配地域にあり、アフリカ植民地には残り4割が駐留していました。植民地の港湾は本国に比べれば防備も手薄で、さらに連合軍間の取り決めにより、イギリス海軍が大西洋方面を、フランス海軍が地中海方面を担当することになっていた関係上、地中海に面したメルセルケビールには戦艦をはじめとする主力艦艇が多数停泊していたのです。カタパルト作戦では、他にイギリス本国のプリマスとポーツマスおよびイギリスの勢力圏だったエジプトのアレキサンドリアでもフランス艦艇の武装解除と拿捕が実施されています。こちらでも反撃したり、脱出しようとする艦艇は撃沈しても良いことになっていましたが、大規模な抵抗は起こらず、旧式戦艦や駆逐艦などが無力化されています。
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